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音響解析とは

工学分野における音響解析

私たちの身の回りにはあらゆる音が存在し、時にはその音を不快に感じることがあります。設計時に予期していなかった騒音が機械から発生されているとき、その機械は本来の性能を完全に発揮することなく性能の一部が音を発生するエネルギーに損失として使われてしまっています。さらにその音が聞こえることで、その機械の品質に対するイメージを損ねることにもつながります。また騒音だけでなく、オーディオ機器のようにユーザーの嗜好に合わせて心地良い音を届けられるかどうかでもその製品のブランドイメージが作られます。そのため、音響解析は製品開発において大変重要な解析のひとつです。

音響解析の例

スピーカやマイクロフォンのような音響機器から、自動車や鉄道や飛行機の騒音、さらにはロケットの打ち上げ時にロケットエンジンから発せられる騒音によってペイロード内にある人工衛星が破損する現象など、多くの工業製品を対象に音響解析が活用されています。

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図1 マイクネット形状の音響解析(左)とスピーカの放射音解析(右)

音響解析の具体例

録音時にマイクが発生するポップノイズの低減による音質向上

録音時に口から出た息がマイクに勢いよく当たり、「ボッ」や「ザッ」などの雑音が発生することがあります。これをポップノイズと呼びます。この現象に対して流体のシミュレーションを活用して、圧力の急激な変化が起こらないマイクネット形状を検討することができます。この検討によってポップノイズの発生を対策できます。

遮音壁の性能評価

実物の遮音壁を製作し、試験結果から遮音性能を評価していては、時間とコストがかかってしまいます。シミュレーションモデルとして開放空間の音場モデルを構築し、バーチャルな音場モデルの中で開発中の遮音壁を評価することで、開発期間の短縮と開発コストの低減を実現します。

車両走行時に路面から受けるタイヤへの入力によって発生する車室内騒音(ロードノイズ)

車両が走行すると路面からタイヤへ加振力が作用し、その加振力によって車体の各部が振動します。この振動によって車室内では騒音(ロードノイズ)が発生します。車体の構造と車室内の音響空間のシミュレーションモデルを作成し、バーチャル上でロードノイズを評価することで、ロードノイズの低減に必要なサスペンションのジオメトリやブッシュ特性、あるいは車体のパネルの共振特性を検討できます。これにより、静粛性の優れた車両を短期間に低コストで開発できます。>>> NVHについてはこちら

音響現象とは

人は空気の時間的な圧力変化(音圧変動)を耳で感じ取ったときにそれを音として認識します。人が認識できる音は、音圧変動が小さすぎても聞こえることができず、逆に大きすぎると不快に感じ、極端に大きな音圧変動は人体に悪影響を与えます。またその音の振動数が高すぎても低すぎても認識することができません。人が認識できる音は図2に示す範囲と言われています。

人が認識できる音の特性

図2 人が認識できる音の特性

図2から分かるように、人は周波数が低い音ほど音量が小さい音を聞き取りにくい性質があります。このような性質のために、低い周波数ほど実際の音よりも小さく感じます。すなわち同じ大きさの100Hzの音と1000Hzの音では、100Hzの音の方を小さく感じます。これを人の聴感特性と言い、自動車の加速時の騒音のように時間的に変動する非定常な音に対してはA特性(dBA)と呼ばれる補正係数(図3)がしばしば使われ、実際の感じ方に近いデータへと補正します。また、ジェット機の騒音のようにその大きさが常にほぼ一定の定常的な音に対してはC特性(dBC)と呼ばれる補正係数が使われます。

音響の補正係数

図3 音響の補正係数

音響解析の理論的背景

車両のロードノイズのように構造物と音響空間が互いに影響し合う音響の解析には、構造音響連成モデルが使われます。構造音響連成問題の解析に必要な方程式の中で音響を支配している方程式は、「波動方程式」に「空気の弾性率の定義式」を代入して導くことができます。

波動方程式

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空気の弾性率の定義式

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音響の支配方程式

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ρ:空気密度、p:音圧、u:空気分子の変位、β:空気の弾性率

 

この音響の支配方程式を有限要素モデルヘ離散化して、さらに減衰と、音響への外力を追加して下の式のように表現します。

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MF:音響質量マトリクス、CF:音響減衰マトリクス、KF:音響剛性マトリクス、PF:音響への外力ベクトル

 

この音響の運動方程式と、構造の運動方程式をまとめて次のような数式にします。

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MS:構造質量マトリクス、CS:構造減衰マトリクス、KS:構造剛性マトリクス、PS:構造への外力ベクトル、A:連成マトリクス

 

有限要素法を利用した構造解析ソルバーでは上記運動方程式を利用して構造音響連成問題を解きます。

ジェットエンジンの騒音など空気の流れによって生じる圧力変動が音源である現象を解析するには、流体騒音の支配方程式を考える必要があります。この支配方程式にLightHillの方程式があり、流体の連続の式とナビエストークスの方程式から導くことができます。

流体の連続の式とナビエストークスの方程式

ρ:空気密度、c:音速、Xi:外力ベクトル、v:流速、p:圧力、δij:クロネッカーデルタ、σij:粘性応力テンソル

 

LightHillはこの方程式からジェットエンジンの騒音が流速の8乗に比例することを見つけだし、その後のジェットエンジンの低騒音化に貢献しました。またこの式から、流体騒音の音源を次の3種類に分類することができます。

  1. 流速が音速に対して非常に小さいとき空力騒音は流速の4乗に比例(単極子音源)、例:管の中を空気がゆっくり流れる時の気流音の音源
  2. 流速が音速に対して小さいとき空力騒音は流速の6乗に比例(二重極子音源)、例:鉄道のパンタグラフから発せられる音源
  3. 流速が音速と同程度のとき空力騒音は流速の8乗に比例(四重極子音源)、例:ジェットエンジンの音源

なお、この方程式を直接解くことは難しいため、解析空間を離散的にモデル化したCFDソルバーを使った解析が多くの工業分野で実施されています。

音響の境界条件

波は密度が異なる材料に到達すると反射する性質があります。音響学的にはこの現象を音響インピーダンス(音響アドミタンスの逆数)が異なるために反射が生じると解釈されています。音響インピーダンスは複素数で表され、その実部をレジスタンス、虚部をリアクタンスと呼びます。レジスタンスに(空気密度)×(音速)を適用し、リアクタンスを0とすることで無反射境界の条件をモデル化します。

音響インピーダンスと音波の反射

図4 音響インピーダンスと音波の反射

またAltair OptiStructには有限要素メッシュで表現された空間のさらに外側に向かって音波が進み続ける境界を設定できる要素が実装されています。この要素は無限境界要素と呼ばれ、空間メッシュの最も外側にこの無限境界要素を設定することで放射音を解析することができます(図5)。

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図5 無限境界要素と音波の挙動

グラスウールやスポンジのように、構造物の中に隙間や穴が開いている材料を多孔質弾性材料と呼びます。多孔質弾性材料は、その隙間が空気で満たされているため、音波はその満たされた空気を伝わって多孔質弾性材料の反対側へ通過することができますが、このような材料を通過する過程で音の大きさは小さくなります。この特性を表現できる理論の一つがBiotの理論です。この理論を使って多孔質弾性材料の特性を表現するには、Biotパラメータと呼ばれる複数の変数を設定します。このパラメータの数に応じて、Biotモデルには数種類のモデルが存在します。

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図6 弾性多孔質材料とそのモデル化

音波が極端に体積の異なる空間の境界に到達したとき、自らの空気の塊としての体積が急激に変化します。このような急激な体積変化に伴って、境界で新たな音波が生まれ、その波がそれまでの進行方向と、その逆方向の両方に伝わり始めます。管楽器の先端ではこの境界の状態になるため、定在波が発生し(気柱共鳴)一定の音階の音を鳴らします。この境界を開口端と呼び、有限要素モデルで開口端を表現するには開口端で音圧変化が無い状態を表現するために拘束の境界条件を設定します。

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図7 開口端での音波の挙動

 

音響解析の解析手順と解析する上での注意点

音響解析の手順は、図8の通りです。このプロセスの中で使用しているAltairソリューションは、NVHソリューションのページをご覧ください。

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図8 解析の手順

解析に使うべきメッシュの大きさ(要素サイズ)は波長に依存します。波長を λ [m]、音速をc [m/s]、周波数を f [Hz] とすると、それぞれの間にはλ=c/f の関係があります。音速を340m/sとすると1000Hzの1波長の長さは340/1000 = 0.34mです。1000Hzのサイン波を2等分する要素サイズ、すなわち170mmとしても、メッシュの端部にある節点上では音圧の変化を確認できません(図9)。そこで音波を6等分するなどして1つのメッシュ内に1000Hzの波が存在することを確認できるようにする必要があります。6等分を想定したとき、1000Hzまでの解析に必要な最大メッシュサイズは1波長/6 = 340mm/6 = 56mmとなります。

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図9 波長とメッシュサイズの関係

また、無限境界要素にも推奨する条件があります(図10)。無限境界要素の要素長は、その要素のアルゴリズム上の理由によって解析する周波数の波長の1/4以下とする必要があります。例えば1000Hzまで解析するとき、1波長/4 = 340mm/4 = 85mm以下のメッシュサイズの要素を設定する必要があります。さらに、ソリッド要素で表現される球体の半径にも推奨値があります。球体の中心位置(極)から無限境界要素までの間に一波長以上が入る必要があります。こちらは解析する周波数の下限値に関係して、100Hzを下限周波数とすると100Hzの1波長 = 3.4m以上の空間をソリッド要素で表現する必要があります。

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10 無限境界要素を使う際の推奨条件

音響解析のための主なソフトウェア

解析と最適化

解析と最適化

OptiStructは最新式の汎用FEソルバーです。高度なNVH解析において世界トップクラスの性能を誇り、非常に大規模な問題を、これ以上ないスピードで解くことができます。OptiStructには、NVH解析と最適化のための独自の高度な機能として、Auto-TPA解析、大規模なモデルに対応した固有値ソルバー(AMSES)、各種モデル縮退機能、設計感度解析、構造物のNVH性能の最適化を容易にするERP応答機能などが搭載されています。

Altair OptiStructの製品情報

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熱流体解析(CFD)

Altair CFD™は、最先端の数値流体力学(CFD)ソルバーです。ロバスト性、スケーラビリティに優れたソルバーテクノロジーが、比類のない正確さを提供します。

ナビエストークス(Navier-Stokes)ソルバー

格子ボルツマン法(LBM)ソルバー

粒子法(SPH)ソルバー

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高周波数の解析

SEAMソフトウェアは統計的エネルギー法(SEA)を利用した振動と音響の解析ソフトウェアです。自動車、航空宇宙、船舶、重機産業の分野において高周波域の振動‐騒音ソリューションを提供しています。

Altair SEAM 2025リリースノート

Coustyx(パートナー製品)

Coustyx(パートナー製品)

Coustyxは境界要素法(BEM)を使った音響解析ソフトです。境界要素法は要素数が増えると計算時間が極端に長くなる傾向にありますが、Coustyxは高速多重極法と呼ばれるアルゴリズムを実装しているため、広範囲な周波数域における非常に大規模な音響問題に迅速かつ正確な解をもたらす解析ソフトウェアです。

Coustyxの製品情報

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AVL EXCITE™ Acoustics(パートナー製品)

AVL EXCITE™ Acousticsは、エンジンやパワーユニットなどの振動している構造物から自由空間に発せられる放射音を、波動ベース法(WBT)を用いて計算するツールです。

AVL EXCITE™ Acousticsの製品情報

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Insight+(パートナー製品)

Insight+により試験データとCAEデータのNVH特性を耳で聴いて比較検討できます。

Insight+の製品情報

音楽と音響解析について、ブログにも投稿しています

ブログを読む

音響解析に関するウェビナーや事例

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[理論編]OptiStructによる構造音響連成解析入門セミナー


電気自動車の開発は内燃機関が無くなるため、従来とは異なる騒音問題が顕在化します。EV開発で重要視される騒音対策について、本ウェビナーで音響解析の基礎から解説し、OptiStructによる音響ソリューションと活用事例を併せてご紹介します。
<理論編で扱うトピック>
構造音響連成解析の理論概要 - 人の聴感特性 - 工学分野における音響 - 波動方程式と運動方程式 - 構造音響連成 - モード解析 - 無限境界要素について - 多孔質材料とBiot理論

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OptiStructを活用した音響・振動・電気回路 連成シミュレーションによる高精度音響設計

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音響機器の音響性能を高精度にシミュレーションするためには、音響シミュレーションだけでは不十分で、筐体等の構造振動や電気回路との相互作用も考慮する必要がある。パナソニック コネクト株式会社では、音響・振動連成解析に強いAltair® OptiStruct®に、独自に開発した電気回路との連成手法を適用することで、マルチフィジックス連成シミュレーション手法を実現した。本講演では、本手法を活用し、ホーム/車載オーディオをはじめとする各種音響製品の設計に活用した事例を紹介する。ATC Japan 2025

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OptiStructによる音響解析(カシオ計算機)


スピーカーは、振動板の表面から発生する音波に着目しますが、同時に背面から発生する音波があり、複雑に干渉します。スピーカーを組み込む製品を作る場合、背面から発生する音をどのように扱うかで性能を大きく左右します。振動板以外の構造物も多く、これらは音の広がり方をさらに複雑にし、周波数ごとにも異なります。逆に、形状を変更することで、用途に合う放射特性をデザインできる可能性があります。この資料では、平面スピーカーを対象に、音響シミュレーションを実施し、空気中を伝わる音と構造物との連成ができ、構造を考案するヒントを得た事例を紹介します。

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